居間をコンサートホールに変えてしまおう
ステレオの音質の善し悪しがルーム・アコースティックに左右される以上「部屋が悪い場合=部屋の音響を改善できない場合」には、「結局どんなに高価なステレオを買ったとしても宝の持ち腐れになりかねない=部屋が悪い場合には良い音でステレオを鳴らすのはあきらめるしかない」という悲観的な結論しかありませんでした。お客様に相談を受けても、部屋の状況が悪ければ「最初から自宅をコンサートホールに変えよう」という望みが完全に閉ざされてしまっていたのです。
しかし、今年になって「マルチチャンネル」に取り組んだ結果、ルーム・アコースティックの改善に「疑似5.1Ch方式(CS5.1)」が非常に有効であることを発見しました。簡単に説明すると、こういう事になります。いままでは壁からの反射音に頼っていた「ルーム・アコースティック」をスピーカーから「人工的に作りだした残響音を発生」させることで置き換えてやるのです。この方法なら、「左右で反射条件の異なる変形リビング」や「狭い部屋」でも「自在に好みのホールトーン(ルーム・アコースティック)」を作り出せるのです。
もちろんご存知のように、YAMAHAはDSPという方式で「人工的な残響音を作りだすプログラム」を開発し発売していました。また、ダイナベクターやその他のメーカーも様々な方法で「人工的に残響を作りだす方式」を提案し販売しています。
しかし現時点でそれらは、ピュア・オーディオの世界に普及していません。それはなぜでしょう?それは、「実際に使う人の立場に立って製品が十分練り上げられていない」せいだと思います。YAMAHAのDSP方式は、方法論としては正しいと思うのですが残響音の質が低かったり、残響を再現するためのスピーカーの形状や位置決め指定が曖昧であったり、肝心な煮詰めが甘く「映画の味付け」程度にしか活用されていないのが現実です。(可能性は、まだまだあるということです)
The Amplifier DSP-AZ1
YAMAHA AZ-1のホームページより抜粋
希望小売価格 300,000円
Silent Theater(サイレントシアター)
DSP LSI=YSS-910の44bitという、高精度な演算能力が可能にしたのが「サイレントシアター」です。ヤマハならではの精密な基礎データと計算精度のもと、HRTF(Head Related Transfer Function:頭部伝達関数)を用いた両耳間のクロストーク解析を実施し、自然で立体感にあふれる音場効果を持ったヘッドフォン用シネマDSPアルゴリズムを開発。ドルビーデジタルやDTSによる、シネマDSPのマルチチャンネル音声をまるでスピーカーがセットされているかのような迫力のままヘッドフォンで楽しめるようになりました。例えば、深夜などスピーカーが使用できない条件にあっても、最新サラウンドの醍醐味を満喫することが可能です。この機能を堪能するための手続きは、シーリングパネル内の端子へヘッドフォンを接続するだけ。スピーカーやプリアンプ出力はオフとなり、内部デジタル信号処理がヘッドフォンモードヘと自動的に切り替わります。また、ワイヤレスヘッドフォンを利用した場合は、ひとつのヘッドフォンの送信機部をDSP-AZ1の端子へ接続することで複数のヘッドフォンによる同一視聴も可能となります。なお今回、新しくDSP-AZ1への搭載にあたって、すべてのプログラムの音場パラメーターをチューニングしました。
Virtual CINEMA DSP(バーチャルシネマDSP)
きわめて自然な表現力を持ったサラウンド再生を、より幅広い条件のもとで再現したい。それを目標に開発搭載されたのが、リアスピーカーを設置しない状態でもシネマDSPの優れた音場効果が楽しめる「バーチャルシネマDSP」です。ヤマハ独自のデータと理論に基づくバーチャルシネマDSPアルゴリズムの開発によって、仮想的なスピーカーを生成、リアスピーカーの設置が難しいようなケースなどでも大きな効果を発揮します。また今回、新しくDSP-AZ1への搭載にあたって、すべてのプログラムの音場パラメーターをチューニングも行いました。セットメニュー「lC.REAR L/R SP」をNONEに設定することで、DSP処理が音場プログラムに応じた「バーチャルシネマDSP」モードに移行。センタースピーカーやフロントエフェクトスピーカーを使用する状態、さらには、L/Rの2スピーカーのみのシステムという最小のセッティングにいたるまでの幅広い条件下でシネマDSPの真価が発揮されます。作動時は、DSPAZ1本体ディスプレイのVirtualマークとDSPインジケーションが両方とも点灯します。
人の音源判断のメカニズム
なぜ人は音の方向がわかるのでしょうか。人は音を聞くとき、音量の差や、伝わる時間の差、あるいは位相差や周波数特性を無意識のうちに感じています。たとえば、左前方で物音がした場合、左耳の方が大きく聞こえたという「音量差」による情報を得ると同時に、左耳の方が早く伝わったという「時間差」による判断も瞬時に下しているのです。また、音源からの音波は、直線的に耳に届くわけではありません。頭や自分の耳や胸などに反射しながら鼓膜まで到達します。音波は、前から届くケースと後ろから届くケースとでは、反射の仕方などが異なっているわけです。人は、その伝わり方の違いを記憶しているため、今、その音はどこから聞こえたかを知ることができるのです。この微妙な音の伝わり方の違いを「伝達関数」と呼んでいます。
頭部伝達関数を緻密に分析
この、知覚処理能力を応用すると、まるでそこに音源があるかのように思いこませる、バーチャルな空間をつくることができます。つまり、人の記憶の中にある音響信号と同様の特性を持たせた信号を仮の音源から送り出せばいいのです。このことで、例えば仮のリアスピーカーから音が出ているように感じたり、臨場感にあふれる音場が最小限のスピーカーシステムから広がったりといった世界を体験できるわけです。ヤマハは、バーチャルな音場を創り上げる上で重要な「頭部伝達関数」を独自のノウハウで解析、シネマDSPの名にふさわしいクオリティを持った空間を出現させることに成功しました。