DCT(ダブルクライオ・トリートメント処理)について
(一部、AETのホームページより引用)

最近、オーディオ、ヴィジュアルの分野でも「低温処理による性能の向上技術」が注目され始めています。 これは、要約すると「材料を極低温処理することにより物性を整えて、電気的、機械的な特性を向上させる技術」です。ただ、この「極低温処理」を謳っているのが極めて特異なガレージメーカーが多いためか、いまだに「極低温処理」 の効果自体を懐疑的にお考えの場合があるようです。しかし、すでに「極低温処理による物性の改善技術」は、高性能工具鋼工業の世界では有名な技術なのです。そこで、今一度誤解のないように、この「極低温処理」についてご説明したいと思います。一般に「極低温処理」と呼ばれている技術には、次の3通りの処理が含まれています。

l                    @サブゼロ処理(SZT)

不活性ガスを使用し、部材を最高で−84℃まで冷却し、分子レベルで物性を整える技術です。その理論は次のようなものです。本来、どのような物質でも、分子レベルでは不規則な配列になっています。物質が冷却されると分子間が狭くなり体積が収縮しますが、その際、分子同士が規則正しく凝集されます。つまり、バラバラだった分子配列が規則的になります。一旦冷却した後、温度が上がり凝縮した分子が元に戻る際も、配列はバラバラにならずに規則的な配列のまま広がっていくのです。その結果、分子レベルのストレスが解消(バラバラに並んでいた分子が規則的に再配列)されて機械的強度が増したり、電気的な抵抗成分が減少する事が有るのです

サブゼロ処理は、低温処理といっても、比較的簡単に出来るガスSZ処理から、部材を極低温液体の中に埋没させる液侵クライオ処理に大きく分かれます。ガス冷却は冷却容器に部材と工業用ドライアイスを使用し処理しますが、ある程度の知識と技術があれば処理が加能です。しかし、冷却温度は−40℃〜50℃程度で分子の再配列効果も劣ります。そこそこ効果的な技術で比較的低コストで処理が出来るので、様々な製品に施されています。 オーディオ業界では通称「クライオ処理」と呼ばれている処理がこれに該当します。

さらに効果的な技術として、工業用ドライアイスと工業用アルコールを使用した液侵SZ処理があります。ここまで来るとかなりの技術と管理技術が必要とされるので、専門工場と技術者が施工する事となります。冷却温度は−80℃程度まで可能で、高度な分子再配列効果が期待できます。

 

l                    Aクライオジェニック処理(CGT)

極低温の液体を使用し、部材を最高で−196℃まで冷却して原子レベルで物性を整える技術です。サブゼロ処理に比べて遙かに低い温度で処理を行うCGT処理では、原子間の摩擦が減少し分子のみならず原子レベルで凝縮が起こり、正しい配列(ストレスを受けない状態)へと再配列が起こります。しかし、冷却時に大きな体積収縮が発生するため、極めて高度な温度などの管理技術が必要で、急激な温度変化を部材に与えると、テレビ番組の実験の様に部材が崩壊してしまうのです。そのため、CGT処理は物理的に高度な特性が必要な部品(発電所のベアリング、電極、難切削材用の超硬工具等)などに対して行われています。

冷却した窒素の気体中で行うガス冷却クライオ処理では、冷却容器の底に液体窒素を浸しその上に部材を配置して冷却された窒素ガスによる間接冷却を行います。この処理では、部材を−120℃程度まで冷却可能で、原子レベルでの再配列が期待できます。大気圧の液体窒素中に部材を浸して、−196℃まで部材を冷却することが可能な、さらに効果の高い液侵クライオ処理についてご説明いたします。この処理は特殊な冷却容器の中に部材を配置し、その容器中に−196℃/77Kレベルというとてつもない極低温の液体窒素を充填するのですが、当然部材は温度変化の大きさに比例して非常に大きな体積収縮をおこします。そのため、緩やかに冷却して段階的に体積変化のストレスを取り除かないと、部材が破裂するなど崩壊を起こします。さらに、冷却工程が成功しても、極低温下では部材の弾性が殆どなくなるので、衝撃はもとより、振動でさえ崩壊の危険が生じるため、次の沈静工程(極低温下で原子が再配列するのを待つ工程)には、高度な管理技術が必要とされるのです。また、極低温下で非常に長い時間沈静化させる理由は、たとえ原子間の摩擦が減少しても各原子は高速で再配列しないので(材質によって差異があります)、整うまで長時間の沈静工程が必要だからです。(−196℃で最低20時間の沈静工程を施工しています)最後に、極低温下で原子配列を整えた後、極低温下から常温に部材を崩壊させずに生還させる、放冷・除冷工程があるのですが、部材が大きく体積収縮を起こしている極低温の状態から常温に戻す際に、大きな体積膨張が発生するこの工程が最も技術を要する工程なのです。私達は、不活性ガス中で最低24hを掛けて段階的に常温へと生還させることで、オーディオパーツなどへのクライオ処理を可能としたのです。

 

l                    Bデュアルクライオトリートメント(DCT)

デュアルクライオトリートメント(DCT)処理は、私達が長年の研究により開発した独自の極低温処理技術です。まず、サブゼロ処理で分子レベルの物性を整えた後、さらにクライオジェニック処理を施し、原子レベルまで完璧に物性を整えます。DCT処理とはSZT処理と、DCT処理の長所を組み合わせた、より効果が高く熟成された極低温処理技術なのです。DCT処理が他の低温処理より優れる点は、原子レベルで部材を完璧なストレスフリー状態へと再配列できる事なのです。

DCT処理は、まず部材の熱を取り除く除熱工程(不活性ガス中で施工)から始まり、最終的には極低温の不活性液体の中に埋没させるのですが、この液侵工程(−196℃/77Kレベル)極低温状態から、常温(20℃)まで部材を崩壊させずに、生還させる除冷工程にいたる述べ時間は、最低72時間を要します。これらの処理に関しては、国内屈指の熱処理会社(ISO9001、14001共に取得)や、極低温液の供給会社と技術提携をしながら行っており、町工場レベルとは根本に施術のレベルが異なります。もちろん、二重に処理を施すため、複雑な工程の管理技術のみならず、コスト負担も大きくなります。私達は工業の基礎技術研究の過程で、これらの極低温処理が電子部品を含む一部の導体の音質改善に有効である事を発見し権利を登記したのです。

 

l                     適切な温度管理及び時間管理が必要

特にオーディオパーツはその材質により様々な特性を有していますので、その特性に合ったクライオジェニック処理が必要とされます。 町工場レベルでは主に、ドリルの刃やネジなどの硬度を強化する目的での単純な処理しかできず、ケーブルやコンセントといった複合材 (樹脂、銅、真鍮、鉄など)に対しての複雑な温度管理や時間管理が出来ません。しかし、私達はその問題に果敢にトライし様々な温度係数を試しながら、DCT処理の効果と安全性を協力企業のラボの高機能な測定器を駆使したデーターと厳重なヒヤリングを積み重ねることにより、処理の有効性と、安全性を確認したのです。この間約1年以上の研究開発期間を必要としました。

 

l                    低温処理の有効性と安全性について

AIRBOWとAETは共同で、様々な研究を行い「オーディオ機器に使用されている部材に低温処理を施すと、とてつもなく高いレベルの特性を発揮する事を確認」しています。しかし、非常に低温で処理を行うため、部材その物の特性や安全性が低下したり、最悪の場合は使用不能(壊れてしまう)恐れがあるので、処理には慎重な検討が必要とされます。
例えば、鉄は軟鉄の状態では強磁性体なので磁石に使われますが、低温処理を行うと硬鋼へと変体が進むので、磁性が弱くなってしまいます。つまり、スピーカーのマグネットなどを処理することは逆効果なのです。
それに対し、銅線に施す場合は非常に高い効果を発揮する事があります。銅線は引き抜き工程時に、ストレスにより加工硬化をおこし、硬銅状態へと組織が移行します。その状態では導電性が低下するので、焼きなまし(アニール処理)を行い、特性を向上させます。これら熱処理は結晶レベルでの物性改善効果しかありません。しかし、DCT処理は物質の根源要素である原子レベルでの物性改善が可能なので、強度を落す事無く大幅な導電性改善が可能な現代科学最高の熱処理技術なのです。私達の実験ではソレノイドインダクタ−が、最高50%ものDCR減少を記録し、現在日本を代表するハイテクメーカーと共同研究作業を行っています。もし電気の事を詳しい方がお読みになれば、この様なDCR減少効果に失笑されるかも知れませんが、DCT処理はアニール処理と比較し、数倍の導電性改善効果が確認されています。様々な温度管理方法を試し、オーセンティックなどの関連企業とその効果と安全性を研究した結果、多くのオーディオパーツが、DCT処理の前後で同等以上の特性と耐久性、安全性を保証できるレベルに達しました。

DCT処理を施されたパーツの音質は、一言でいうと「非常に緻密」になります。処理が最高の効果を発揮したときには、電気を水流に例えるなら処理前の電線はゴムホースで、処理後の電線は鉄管というような劇的な変化が見られます。パーツの各部の緩さやがたつきで、スピーカーユニットを動かす前に消えていたエネルギーのロスがなくなり、音が素早く立ち上がります。それまでは消えていた微少な音が再現されるので、音にならない音が聞こえるようになり、その場の空気の動きや、演奏者の動きが、音が出る前に感じられるようになります。また、音が無駄な余韻を残さず直ちに収束するので、スピーカーから出る音が楽器と同じように多彩な音色になり、電気的な歪み感が減少し、音は限りなく「生」に近づきます。そして何よりも驚くのは、演奏者の「気配が手に取るように伝わってくる」ことなのです。

 

l                    最終的には、DCT処理を手段として使いこなすことが重要

オーディオ業界では新技術が発明されると、その方法を使えば「まるで魔法でもかけたように何でも良くなる」というような説明がなされますが、それは間違いです。あらゆる回路やパーツ、基盤やボディーを構成しているパネル等は、「すべて複雑な相互関係」を持ち、その複雑な相互関係から音楽が作られているのです。
それは、楽器を作るのと非常に似ています。例えば、どんなにいい材料を使っても楽器の各部分の響きが調和していなければ、その楽器は上手く鳴りません。オーディオ機器もそれと全く一緒なのです。一部に最高のパーツを使っても、あるいは部分的に音質を向上させても、それが仇となってかえって全体の響きが悪くなることがあるのです。
DCT処理を施したパーツを採用する場合も同じです。まず、パーツの種類やサイズにより、最適なDCT処理の温度管理方法を見つけます。そして、もう一度最初から機器を設計、チューニングするのと同じように、細心のヒヤリングを行いながらパーツを選択し、再調整を行うのです。
オーディオ機器の設計、チューニング段階におけるパーツや回路の時定数の選択も楽器を作るのと全く同じで、単純にどこかを変えればよいというものではなく、全体の複雑な相互関係に注目しながら各部の調整や設計をおこなわなければならないのです。結局、どのような素晴らしい技術、素晴らしい回路、素晴らしいパーツを手に入れても、それを生かすも殺すも設計者、チューナの腕次第なのです。
AIRBOWとAETは、このすばらしいDCT処理ですら「単なる通過点」として考えています。技術が進めばそれを真っ先に取り入れ、そしてより良い技術を常に求め続けるその姿勢があってこそ、どこよりも早く、どこよりも優れた製品を生み出せることに違いはないのですから。