もう少し話を掘り下げる。私たちが「音を聞く様」は、「CDプレーヤーから音が出る様」によく似ている。CDプレーヤーは、「ピックアップが捉えたデータ」を直接「音」として出力しているのではない。「データ」は一旦「メモリ」に読み込まれ、「CPU」が「欠落したデータ」を「補完修正演算」し「音」として「出力」している。決して「リアルタイム」に音が出ているのではない。
「データ」を「鼓膜に届く音」・「ピックアップ」を「耳」・「CPU」を「脳」・「出力される音」を「聞こえる音」に置き換えれば「人間の聴覚の仕組み」が分かるはずだ。「鼓膜に届く音」が「同一」でも「演算プロセス(脳の個性)」の違いによって「聞こえる音」は確実に異なるのだ。
この「脳の個性」を抜きにして「音の聞こえ」について語ることは出来ない。特に、「音のクリエーター=音決めする人」は、自分が聞いている音に「自分の個性=その瞬間の脳の個性」が反映されていることを忘れてはならない。
私たちが見ている「物体(映像)」も網膜に写った光が「電気信号に変換」され、視神経を経て脳に伝わり「脳の中で電気信号を元に再編成されたイメージとして実態化した物体」にすぎないと説明したが、その実例を挙げる。
生まれたての赤ん坊は「視力が弱く」、大きく動く物にしか興味を示さないが、それは「ハードウェアとしての眼球」の精度が低いのではなく「情報を処理する脳が未発達」だからにすぎない。成長とともに「脳は視神経からの情報を素早く処理」出来るようになり、「ハードウェアとしての眼球の精度は向上せず」とも赤ん坊の視力はぐんぐん向上する。 |
聴覚も「正しいトレーニング」により「正しい記憶」を集積することで「聞き分け能力(耳の良さ)」はどんどん向上する。トレーニングを積んだ人とそうでない人は、全く同じ音を聞いても「聞こえ方」が全く変わってしまう。
その「正しいトレーニング法」を世界で最初に「科学的な論文」として発表したのは、フランスの言語学者「アルフレッド・トマティス」だろうと思う。トマティスの著書「人間は皆、語学の天才だ」を読めば、「聴覚による聞き分け」について多くの大切なことが分かるはずだ。
最近、ネットで盛んに宣伝されている「一週間で英語が聞き取れるようになる!?」という英会話トレーニングは、トマティスが発明した「トマティスメソッド」に基づいているのは、ほぼ間違いないと私には感じられる。
もし、そうだとしたら、トマティスの名前を出さないのは「無断借用」であり言語道断だ。確かに「それ」は、明確に法律で保護された権利ではないし、そうだとしても「保護期間」は終了しているだろう。しかし「道義的な責任」はどうなのだ?
この業界の悪質業者も、同じように「無断借用(パクリ)」を繰り返し、恥知らずにもそれで飯を食っている。それは、私の考えているオーディオの本質とは完全に矛盾する。情けないことだ。 |